体は剣で出来ている。
無限に広がる世界には、同じく無限の剣が刺さっている。
俺は今、その無限の世界を歩いている。 その先にあるモノに向かって
その先には、丘がある。
その丘には、この無限の世界にあるはずの無い一振りの剣の鞘が刺さっていた。






































アンサー  第一話/追いかけるべき背中




息を吐き、弓を引く。
目を閉じ、矢の軌道を頭の中で思い浮かべる。
そして、自分が弓を射る姿を赤い姿の男に重ねる。
心を無にし、弓の弦から自然に手を放す。 既に何千と反復した動作に、身体が無意識に反応する。




すーっ、息を吸い弓を下ろす。
聖杯戦争も終わり、その傷跡も癒え学校もいつもの落ち着きを取り戻した頃
二度とやることは無いと思っていた、弓を手にした。
その理由の一つは、今も入院している慎二の変わりに弓道部の副主将代理をする為
そして、もう一つはあいつが辿り着く事の出来なかった「正義の味方」になる為に
その為にあいつの姿も背負う事を決めた。
その事を遠坂に話した時は、激しく反対された。
しかし、いくら反対だからってガントまでぶっ放すとは思わなかったが……
それでも、負けずに説得を続けた結果

「衛宮君がそこまで言うなら、もう止めないわ。 あなたが道を間違えそうになった時には
私がぶん殴ってでも正してあげるから」

と言って渋々ながら納得してくれた。

「さて、そろそろ朝飯の用意をしないと、内の王様がぼやき出す頃だな」

俺は、弓を片付けて朝食の用意をする為に台所に向かった。













朝食が出来上がったと同時に、遠坂が起きてきた。

「おはよう、士郎」
「おはよう遠坂、ほら牛乳」
「うん、ありがとう士郎」

今更言うまでも無いが、遠坂は朝に弱い
しかし、そこまで牛乳を飲む姿に違和感が無いのもどうかと思うが

「何よ、何か言いたいことでもあるの?」
「いや、何でも無いよ」
「ふーん、まあいいけど士郎。 今日もやっぱり弓を引いてきたの?」
「ええ凛の言う通り、今日も土蔵の前でやっていました。 その為に少々朝食の時間が遅れましたが」

とセイバーが少々睨む様に、こちらに目を向け答えた。
遅れたって言っても10分位のモノなんだが、そんなに恐い目で見なくても

「まぁイイじゃない先生としては、士郎がまた弓道部に戻って来てくれて嬉しいし
桜ちゃんだってそのおかげで、病院にも頻繁にお見舞いに行けるんだから」
「タイガ、私は別にシロウに怒っている訳ではありません。ただ毎日の生活のリズムが狂う事に対して
文句を言っているだけです」

藤ねぇのフォローに対して反論しているセイバーだが、文句を言うのも怒っているのも対して変わらない気がするんだが

「悪かったよ。 今度からは気を付けるからとりあえず飯にしよう
早く食べないと折角の料理が冷めるからさ」
「ええ、その通りです。 早く食べましょう」

と、さっきまで怒っていたセイバーも冷めた料理は食べたくないのか、あっさりと態度を変えてしまった。
結局腹が減って、苛立っていただけか

「ムッ、シロウ何をその様な目で見ているのです。 早く朝食を食べましょう」
「はいはい、判ったよじゃあいただきます」
「「「いただきまーす」」」

今日の朝は、ふっくら卵焼きとハムを軽く焼いたものとトーストだ。
家はもともと朝食は和食派だったのだか、遠坂とセイバーの影響で今ではすっかり洋食派になってしまった。

「やっぱり士郎の作った卵焼きは最高よね」

コクコクと頷きながら食べているセイバーを見ても、思っている事は一緒だろう。
ちなみに卵焼きは、白身と黄身を別々に混ぜてから作ると美味しくできるのだ。













「「「ごちそうさまでした」」」
「お粗末さまでした」
「さて私は、学校に行くけど士郎は道場に行ってから学校に行くの?」
「ああ、これも日課だからねやらないと一日が始まらない気がするしね」
「まぁいいけど、セイバーこの前みたいにやりすぎて、士郎が学校休まなくちゃいけなくしないでよ」
「り、凛! あの時の事はあれほど謝ったじゃないですか
それにシロウの剣の腕も上がってきて、気を抜いてはこれ以上の成長は望めませんので少々痣ができたりするのはするのは仕方が無い事です」

と多少焦りながら弁解をしているセイバー、でもそんなに俺の剣の腕って上がってるのか?
まだ一度も一本取った事も無いのに
まぁ、それなりに防げるようにはなって来たけど

「なんにしても、遅刻はしないようにね。 じゃあ行ってきます」
「それじゃあ私も部屋に戻って、宝石でも磨いてるわ」

それぞれが動き出したので、俺たちも剣の訓練の為道場に向かった。










「ハアアアアアアッ」

滑る様に前へ踏み込んできて、竹刀を打ち込んでくるセイバー

「くっ」

体勢を低くとり、セイバーが前へ踏み込んでくる分後ろに後退し、剣撃を受け流す。
一撃、二撃、三撃と受け流し六撃目を受け流した後に、間合いを開ける。
最近になって気付いた事だが、人にはそれぞれ一度の最大攻撃数が決まっていて
その後わずかに、次の攻撃に間ができる。 しかしセイバー相手では、反撃するには短すぎるので
間合いを空けて、体勢を立て直すしかない。

(くそっ! あいつは下がる事無くセイバーの攻撃をさばいていた
思い出せ教会でのあいつの動きを、重ねろあいつのすべてを自分に
認めろ今の俺の未熟さを)

スーッ、息を整え自分の間合いをとる

「いくぞセイバーーっ」

今の俺は未熟だ。 ならば攻めなければ、その先には敗北のみ
俺の道には

「ただの一度も敗走はない!」

その瞬間、完全にあいつの姿が重なった。

「ア、アーチャー・・・くっ」

セイバーがあいつの名前を呼んで、竹刀を構える。
しかし、今の俺には関係ない。 攻めろ、攻めろ、攻めろ

「ウオオオオォォォ」

俺の剣撃をあいつの剣筋がなぞる。
続け様の三連撃を、セイバーに放つ。
それを、最小限の動きで躱し、弾く。

(今の俺の最大攻撃数は三撃、来る!)

セイバーも攻めに転じる。

「ハアアアァァッ」

しかしそれは判っていた攻撃。 その剣撃をさばき
セイバーの懐に入る。 しかしセイバーもその事が判っていたのか
体当たりで俺のバランスを崩す。
その隙にセイバーが間合いを取る。

「痛っ」

セイバーとの距離が空いて息をついた時、頭が痛たんだ。
この痛みは、宝具を投影をした時の痛みに似ている。
その痛みに膝をついた。

「!! シロウ」

セイバーが、膝をついた俺に近づいてきた。

「いや、大丈夫だ何でもない」

そう言って俺は、立ち上がろうとしたが骨が軋んだ。

「がっ」
(くそっ、上手く動けない)

「シロウ、動かないで下さい」

セイバーは、そう言って俺を座らせた。

「それにしても、シロウさっきのは魔術か何かですか?」
「は?」

一体セイバーは、何を言っているのか? 俺に使える魔術が強化と投影しかない事は、セイバーも知ってる筈なのに

「ですから、さっきの試合の事です。 一瞬シロウの姿がアーチャーに見えました
しかもその後の攻防、アーチャーとまったく同じ動きだった
連撃の癖、更にはスピード。 昨日までのシロウとは、明らかに違うものでした」
「いや、俺は特に何もしてないぞ。 そうだなぁ、あの時はあいつの事を考えながら攻める事だけに集中していた」

そう、とにかく攻める事だけを考えていた。 でも何故か今日に限って、完全に自分のイメージがあいつと重なっていた。
弓を手にして以来いつもイメージしていたあいつの動き、あいつの間合い、あいつの思考

「まぁ、その話は学校が終わってからにしましょう。 もうすぐ学校の時間です。
今凛を呼んできますのでそこで待ってて下さい。 あれだけの動きを人間であるシロウがしたのです
体への負担は相当なものでしょう」

と俺に告げてセイバーは、道場を出て家の方に走っていった。
走り去るセイバーを見ながら俺は、さっきの事を考えていた。











その日、俺は追いかけていたあいつの背中に追いついたのだ。
それは、これからの衛宮士郎に襲い掛かる試練が始まった事を告げていた。





・・・続く


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