俺は今、今朝のセイバーとの試合での事を思い出しながら
遠坂と一緒に、学校に歩いていた
未熟な俺に許された唯一の魔術、投影
己の内にある、剣の世界をイメージし具現する
自らを担い手にし、その剣の経験を身体に刷り込ませる
弓を手にして間もなく、気付いた事がある
俺の中には自分というものが無く
故に誰を演じる事も出来る事に
始めは、その事実に恐怖した事もあった
しかし今では、その事実を認める自分が居る
それ以来、射の時にはあいつの姿をいつもイメージしていた



































アンサー 第二話/突然の遭遇



「ちょっと士郎、身体は大丈夫?」
「ああ、少し身体の節々が痛いけど問題無いよ」
あの後、セイバーが遠坂を呼んで来てからは大変だった
遠坂から、開口一番飛び出した言葉は
「このっ、馬鹿士郎!朝から無理な訓練は止めるようにセイバーに言ったばかりで今度はあんたかー!」
ガーと吠える様に俺を怒鳴りつける、しかし別段特別な事をした憶えは無いんだが
「リン、とりあえず怒るのはシロウの容態を見てからにしては、どうですか?」
と俺に助け舟を出してくれるセイバー
「むっ、で大体何でこんな事になった訳?」
渋々ながら怒るのも止め、俺の容態を診断しながら
聞いてくる遠坂、しかしまだ明らかに私は不機嫌ですと言う雰囲気を出している
「いや、何時も通りにセイバーと試合をしていただけだぞ俺」
「は?それで何で全身の神経をここまで酷使できるのかしら、士郎」
「たぶん、シロウがアーチャーと同調した事に原因がある気がします」
セイバーがそう言った瞬間、遠坂の顔が変わった
「ちょっとそれどういうことよ、セイバー?」
「はい、先程の試合シロウがアーチャーの動きを完全に模影しました。多分何かしらの魔術を使ったのではないかと思ったのですが」
そう言ったセイバーの言葉である事に気が付いた
そういえばあの時俺は、一つの言葉が頭に浮かんだ「ただの一度も敗走はない!」
あの言葉を口にした時にあいつの姿が俺のイメージと重なった
そう、その言葉はあいつが固有結界を使う時に言う詠唱の一部だ
でも、何でそれを俺が知っているんだ?
「士郎、何か憶えでもあるの?」
と、俺が考えている事が顔に出ていたのか遠坂が聞いてくる
「ああ・・・・、いや特にないぞ」
今思っている事を遠坂に言うのは、得策ではない気がした
あいつは遠坂に俺の事を頼んだ、それに遠坂も応えた
「私、頑張るから士郎をアーチャーにしない様に頑張るから
あんたも今からでも自分を許してやりなさいと」
・・・・・・・?何故俺がそれを知っている・・・・・何で?
何故?何で・・・くっ、その事を考えると唐突にある衝動に駆られた
ヤメロ、今それを考えるな
ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ
その衝動を俺の中の何かが止めた
「・・・・ふぅ、どうだ遠坂そろそろ学校に行かないと時間がやばいんだが」
そう一息ついて俺はその思考を止めた
遠坂は難しい顔をしながら
「そうね、後はこれをこの薬を打てばとりあえずは大丈夫だけど、学校から帰ったらキッチリ説明してもらいますからね」
と、ドロドロした緑色のしたヤバ目な液体が入った注射器を手にした
あ、あの色はやばくないか
あれを打って俺の身体に異常は無いのかと、危機管理能力が黄色く点滅している
「と、遠坂それ大丈夫なのか?その色は何だかヤバ目なんだが」
「とりあえず副作用は無いけど、即効性を望むなら打つしかないわね」
「判ったじゃあ頼む」
そう言った俺は腕を出して注射をたのむ
そして注射をした後に遠坂が言った事は
「しばらくは身体が痺れる感じになると思うけど、一時的なものだから心配しなくてもいいわ。でも激しい動きはしない方がいいわね」
などと、言ってきた・・・おい遠坂そういう事は打つ前に言え
それを感じ取ったのか遠坂は俺の顔を見て、心配させた小さな仕返しよという顔をしていた











「道場でも言ったけど、今日は激しい運動は控えなさい。弓も今日は射らない事」
「ああ判った、でも顔くらいは出すぞ、仮とはいえ副主将だからな。行かないと美綴に何言われるか判らないからな」
と美綴の名前を口にした途端、遠坂の顔が不機嫌になり
「そうじゃあ、勝手にすれば」
と言ってスタスタ先に歩き出してしまった
俺何か地雷踏みましたか?
「おい、ちょっと待ってくれよ。まだ上手く身体が動かないんだから」













授業も終わり放課後、俺は当初の予定通り弓道部に顔を出した
「おっ!衛宮今日もちゃんと来たんだな、偉い偉い、やっと私にも衛宮を見返すチャンスがやってきたからな毎日来てもらわないとな」
「そんな事言って今じゃもう美綴方が上だろうが」
「いーや、まだ衛宮の方が上だね。私の射じゃあ、あの空間を支配するような、まるで当たる事が決まっているような雰囲気は出ないからね」
「おいおい、いくら何でもそれは言い過ぎだって、それに俺もまだ越えられない壁があるからな」
そう、俺はまだ、あいつを越えていない
俺が行く道の通過点である、あの赤い背中の男を
「はぁ、衛宮が敵わない奴って何だそいつは、神か」
「まぁ簡単に言うなら、未来の自分かな」
「はいはい、やっぱり衛宮は言う事が違うねぇ、じゃあそんな衛宮の射を見せてくれよ」
と言われても、今日は弓を射るなって遠坂に言われてるからな
でも今日は、あいつに追いつく事ができる気がした
セイバーとの試合、剣技においては、追いつく事ができた
しかし、あいつの本分は別にある
それはあいつのクラスでもある弓
その弓において追いつく事ができた時本当の意味であいつと並ぶ事ができる
遠坂には悪いが、一本だけ射る事にした
「判ったでも、今日は調子が良くないから一本だけだぞ」
「判ったよ、じゃあほら私の弓を使いな」
そう言った美綴から弓を受け取り
矢を構え、弓を引く
そして、いつも通り自分の姿とあいつの姿を頭の中でイメージし重ねる
そこで俺は無限の世界で一人勝利に酔いしれるあいつの姿を見た
その先には敵は居ない、居るのは勝利に酔いしれるあいつのみ
そこで俺は気がついた、あいつが勝ったのは己自身
ならば、俺も戦うは己自身のみ
この無限の世界の丘に自分自身以外に敵など存在しない
なぜならば、ここはあいつの理想の終点
しかし、俺はそれすらも越えて歩む事を決めた
ならば、俺は理想の先にあるあいつの姿すら越えてみせる
「彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う」
自然にその言葉が口から出た
俺は、矢を射る
その先にあるのは的ではなく、己の理想の姿
シュッ・・・・・・・・・・・タン
矢を射り約1秒の沈黙の後、矢が的に刺さる音がする
ふーっ、息を整え己の姿があいつと重なった事を確かめる
ふと、気付くと弓道場からのありとあらゆる視線がこちらを向いていた
「おいおい、何だ今の射は。あんなの見せられたら他の奴らが自信無くすぞ」
確かにそれは、会心の出来だった
あの時確かに自分がアーチャーと同じ射をした事を身体で感じた
「えっと、悪い今日はもう帰る美綴、弓ありがとうな」
そう言って、俺は足早に弓道場を出た












学校を出て、家に帰りながらさっきの弓道場での射を思い出していた
また、出たあの言葉「彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う」
あいつの詠唱の一部、しかし何で俺がそれを知っているのか?
あいつの背中を追いかけ、イメージが強くなればなるほど
流れ込んでくるあいつの記憶
今はまだ、それほど強くないが、確かに繋がりつつあるもの
「がっ、・・・・くっそ」
また、頭が痛くなってきた
今度は大丈夫だと思ってたんだがどうやら
今朝の液体のおかげで、痛みが遅れただけらしい
立っているのも辛くなり倒れこもうと思ったとき
「久しぶりだな衛宮士郎」
思ってもみない奴が俺の前に現れた
「なっ!・・・こ・・・言峰・・綺礼」



・・・続く


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