例えばそんな休日



今、八雲は困っていた。
此処は塚本家の庭先、そして草木の中には飼い猫である伊織
そしてその、伊織の口には八雲の大事な宝物が咥えられていた。

「ねぇ伊織、それ、返してくれないかな?」

そんな、八雲の願いの声も何処吹く風、伊織は一向に動く気配が無い。
そこで八雲の取った行動は
まずはねこじゃらしを伊織の前でふりふり、しかし出てこない。
次に毛糸を伊織の前でころころ、でも出てこない。
めげずに茄子とマッチを使って鼠作ってを伊織の前に置く、少し反応するもやっぱり出てこない。
奥の手とばかりにししゃもを伊織に見せてあげるそれも2匹、これも駄目。
しばらく次の手を考えていると、クスッと八雲が笑った。

「そういえば、前もこうやって伊織を捕まえようとしてた」

そう、そしてそれはあの人との初めての出会い。
本当は違うんだけれど、実際に話したのはあの日が初めてだった。
そんな事を思い出している内にその思い出の方法を試してみる。
ジッと伊織を見る。
決して伊織の思っている事が分かる訳でも、八雲が思っている事が伝わる訳でもない。
しかし、八雲は一生懸命自分の思いを伊織に伝える。

(ねぇ伊織、その写真は本当に大切な私の宝物なの。だからお願い返して伊織)

しばらくの間、見つめ合って八雲が

「……おいで」

そう言うと伊織がにゃーと鳴き八雲の足に擦り寄ってきた。
しかし伊織は写真は放そうとしない。
そこで八雲は思い当たる。

「そうか、伊織は播磨さんに会いたかったんだね。だからこの写真を咥えて行って私を困らせれば来てくれると思ったんだ」

そしてもう一つ、私が播磨さんと同じ事をしたから寄って来た。
そう考えると、とても可笑しくなって
同時に嬉しくもなって、とても幸せな気分になった。

「そうだね。私は学校で会ってるけど伊織は偶にしか会えないから寂しかったんだね」

そう言ってあげると肯定の意味を込めた伊織の鳴き声が聞こえた。

「じゃあ、一緒にこの写真を見ながらお昼寝しよう伊織」

そして八雲は伊織を持ち上げて家の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八雲、ただいまー……あれ? 八雲ーっ?…あっ!」

天満が家に帰ってくると八雲と伊織が一緒になって眠っている。
そしてお互いの体の中心には一枚の写真がある。
八雲と伊織の手があってよく分からないが。それはたぶん播磨君の写真
天満は慈愛の笑みを浮かべて幸せそうな二人の姿を眺めて一言

「また、明日学校で会えるよ八雲」



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